少女はスカートのしたで鯨を游がせる。 第1話
ひぐらしが鳴く黄昏がやってきて、先輩に「ここまで」とストップをかけられる。 大粒の汗が首を伝って落ちていく。肌が粟立つような不快感。額の汗を腕でよく拭っていると、そのうち汗が引いてきた。 私が水筒とラケットケースを担ぎ上げたとき、三年生の先輩が思い出したように、 「土方さん、あとで来て」 と呼んだことが私の気を重くした。 「ひじかたさん」 女子というものはつくづくマウンティングを取りたがるものなのだろう。 この中学校の先輩はその野生がとくに強いようで、時折こうして後輩を呼び出しては、 「誰か影グチいってなかった?」 と尋問するのだった。 そのたびに私は、 「別に。私そういうグループ入ってないので」 と嫌味を含めて返すのだ。すると先輩も私の馬鹿加減に呆れるのか、解放してくれる。先輩からすれば後輩の誰に聞いたって同じなんだ。情報が手に入りさえすれば。 それならば私より、隣のクラスの総子の方がよっぽど情報通だと思うのに。 「私は、そういうのは……」 生真面目そうな先輩の雰囲気が苦手で、視線が泳ぐ。 思わず視線を自分の爪に落した。直視できないと判断したからだ。爪の間には泥が入っていた。 そういえば今日の先輩たちのボールはよく飛んでいた。飛びすぎてフェンスを越えて、隣の草むらにダイブしていたし。そこに分け入ってボールを取ってくるのも、後輩である私たちの役目である。おかげさまで腰が痛い。 「だめ?」 「―――え?」 なんの話だろう。 惚けて爪の隙間を見つめていたから話を聞いてなかった。 「付き合いましょうって」 ―――カンカラカン。変なことが起きたんだ。 目の前にいた先輩が宇宙人になってしまった。 私が驚いて宇宙人の目を見ていると、彼女は『なにもおかしなことは無かった』とばかりに見つめ返してくる。 宇宙人である正体がばれたということは、まったく気にしていない模様。 なんてことだ。 この正体に気づいてしまったのは私だけらしい。こんな国家機密レベルの秘密を知ることになろうとは、六時間前にはがつがつとお弁当を貪っていた私に見当つくまい。 おいトシ子、そんな食い意地を張っている場合ではないぞ。 六時間後のお前は大変な事実を告げられているのだ。すこしは大人しくしていろよ。 昼間の自分に呆れて警鐘を鳴らしていると、宇宙人先輩が苛立ったように髪を耳にかき上げながら「付き合ってくださるの?」という。 待ってほしい。 私はまだ宇宙人の重要秘密の片棒を担ぎたくはない。だってまだ驚いてるんだ。 私はまだ13歳だ。ついこの間まで小学生をやっていたのだから、宇宙人なんて聞いたことはあっても見たことは初めてなんだ。 たしかに、入学前に近藤さんたちが騒いでいたのは知ってる。 『あそこの中学はね、女の子ばっかりだから、女の子同士でチューしちゃうんだって』 うそだろ~なんていって笑い転げてた。だって本当に嘘だと思った。 父さんお母さんは、男と女だろ?そういうもんだろ? 多忙な親の代わりに保護者になってくれている私のおじさんだって、奥さんがいる。女の人だ。隣の家のお兄ちゃんだって彼女がいる、私は知ってる。彼氏じゃなくて彼女だ。黒髪が綺麗な白い肌の人。 男同士ってそれって変。女同士もなんか、変だ。 だからきっと、そういう人は宇宙人なんだと思う。同じ見た目をした宇宙人。 からだのつくりは保健で習った。私はちゃんと、男女でからだの作りが違うことを知っている。なのに、女の私の前にわざと女の子の姿で現れたこの先輩は、宇宙人そのものだ。きっとそうに違いない。 じゃないと女の子が女の子を好きになるのって、変だ。 私はその気持ちをそのまま、先輩に伝えた。 先輩は泣いていた。大粒の涙を目尻に落としながら、両手で必死に見せまいとしている。 なんでか分からないけれど私の胸はズキズキした。……また大きくなるんだろうか? 私の胸はこの歳にしては少し発育が良いとよくいわれる。手で持てる程度にあるのだ。 (これ以上大きくなると運動しにくいな……) そう思いながら私は、先輩の目の前で胸を押さえた。 どうして先輩は泣いているのだろう。 宇宙人は大変気難しい生物なんだ、と思った。 長い話をしていたため、私の持っていたコートの杙が最後の道具になってしまったようだ。あとはこの杙を体育館の倉庫の入り口に立てかけてその鍵を閉めれば、私も更衣室に行ける。 体育館か……なんか嫌な響きだ。外で部活するばかりのテニス部は、体育館に入るなんてことそうそうない。それこそ体育の授業ぐらい。じゃあ何が嫌って、あの暗いのがダメだ。というか無理。ホラー話を連想させるところがとっても嫌だ。まずどうして体育館の光って、非常口の蒼白い光だけなんだろう。あんなんじゃ余計に人が逃げにくいと思う。少なくとも私は逃げられない。腰抜かすわ。 まだバレー部は練習しているだろうか? 体育館の横窓から中を覗いてみる……サイアクだ。サイアクの極みだ。電気が消えてる。 だってまだ杙を返してないのよ? お分かりいただける? 「あ~もう!」早く返せばいいってことだろうな。そりゃそうだ。返さないと帰れない。鍵を持ち帰るなんてすれば、先輩じゃなくて先生に呼び出しされる。それはイヤだ。必要以上に職員室に行きたくない。 ―――いざ、ゆかん。 呟きながら体育館の横ドアを横に引く。ごお、ごおっと錆びたドアの重い音がして動き始める。 よかった、まだ開いていたようだ。 ここまで閉まっていたら面倒なことになっただろう。 「失礼しまぁす……」 と意味もなく呟きながら倉庫に向かう。 ガラガラガラ。倉庫のドアも体育館の横ドアと同じように、勢いよく横に引く。 はやく帰ろう。 そういえば家にプリンを置きっぱなしだった。 マヨネーズプリン……あれは私がコンビニで見つけた期間限定のものだ。厳選された卵から作られたマヨネーズを使用しており、マヨネーズ好きには堪らない一品だと容器に書いてあった。 おじさんに食べられる前に食べねば。 (そういえば今日、はやく帰るって言ってなかったか?) それは困る。ひじょーに困る。だってあの人、食い意地が張っているのだ。 (はやく用事を済ませねえと!) 駆け足気味に倉庫のなかに踏み出したところで、私は「え?」と声が出る。 女の子がいた。それも蒼白い子。 ふわふわした髪の毛を布団代わりにして、倉庫の外窓から差し込む月の光を浴びて眠っている。 透き通りそうなほど綺麗な銀色の髪は、星をちりばめたようにキラキラと輝いて見えた。 見ちゃいけないものかと思って、私は一瞬たじろぐ。 でも何秒経ってもその子は微動だにしない。 あと一秒、二秒……止まってから誰も周囲にいないことを確認して倉庫に入ってみる。 近くで見るとその子が幽霊じゃないことぐらいすぐ分かる。よく見れば制服を着てるし足もちゃんとある。そりゃそうだ。頭元に、学校指定のカバンが転がってるじゃないか。 どこの世界に、死んでも勉強したがる幽霊がいる。私ならまっぴらごめんだ。 ということはこの子は人間ということになるが、横たわってるっというのは、体調が悪いのだろうか? と女の子の顔を見る。 ずっと見ていればその顔のつくりがよく分かってくる。 なんというか、言葉が思いつかないけど、綺麗な顔をしていると思う。私と違って鼻筋が通っていてお人形みたいだし、あごもしゅっとしていて、全体的に陶器でできた作品のように整っている。 髪を染める生徒が少ないこの学校でその髪の色は浮くかもしれないが、そのままでいてほしい形が完成されていた。 この子には銀髪がよく似合っている。 「―――み す ぎ」 「へ?」 人形が動いた。驚いて固まる。 「見すぎ」 繰り返し告げられる。言葉遊びをしているのかと勘違いしてしまう。 この子の口の動きは緩慢で、一文字ずつゆっくりと、確実に降らせてくるから。 最初私は、人形の女の子が自分の苗字をいっているのかと思った。あまりにはっきりと文字を告げるから。 けれどそうじゃなくて、それが忠告だと気づいてからは、申し訳なさが勝ってくる。 「す、すみません」 年上かどうか分からず、とりあえず敬語で謝る。 すると女の子は重々しく片目を開いてから、それに合わせてもう片方の瞼を開いて言う。 「同じ学年なのに、どうして敬語」 女の子の目は眠たげだった。その枠の中に、キラリとした小さな宝石がはめられている。よく私を映す宝石だ。それが女の子の瞬きに合わせてよく輝く。 とても綺麗な宝石だ。光り物に興味がない私でも、そう思う。 見惚れていると、女の子は宝石を隠せんぼうしはじめた。「ぁ……」 思わず私は声が出る。勿体ない。 咄嗟に手に持っていた杙を落としてしまう。 ―――かんからんっ。乾いた音が響いていく。 どうしようかと私が慌てていると、女の子に話しかけられた。 「質問してるんだけどぉ」 「あ、ごめ……」 「だからどーして敬語?」 「え? 同い年?」 「体操服の色が私のタイと一緒だから。目ぇ見えてる?」 タイと言われて女の子の首元を見ると、そこによく見かける赤いタイがかかっていることに気づく。 たしかにこの子は私と同い年だということはすぐにわかることだった。 でもそれにしたって、不親切だと思う。 意味ありげに台詞を遅らせたり、瞬きをしてみせたりして。そんなんじゃ何か特別な存在じゃないかとこの子を特別視してしまうのは、仕方のないことだろうに。 それを『アンタって馬鹿なの?』というような声色で、 「ちゃんと見たら?」 と忠告してくるのだ。 これにはいくら温厚な私といえど、カチーンとくる。 (裏で、鬼のような女、と言われているとは知らない土方だ) 語尾を強めて、私は言ってやる。 「……なんだそれ」 「なぁに?」 「ちょっと気づかなかっただけだろ」 「ふーん。もっとさぁ相手のこと見た方がいいよぉ?」 「―――お前、友達とかできないタイプだろ? そんな相手のことを考えないようなヒドイこと言ってると、みんな逃げていっちまうぞ?」 「アンタのその大きなお世話とおんなじ」 「……ふーん」 なんて嫌味な奴! いちいち私の神経を逆なでするようなことを言う。よくもまあ、そんなに、相手を苛立たせる台詞が次から次へと出るものだ。 かえって感心してしまう。いやウソだ、むかつくだけ。こんな奴にいくら言ったって無駄だ。 もう二度と話しかけないでおいてやろう。 鼻息を荒くして、私は心に決めた。 ピーピー ピーピー 「あ、やば」 校門のある方角から笛の音がする。 閉門を告げる合図だ。 どうしよう!まだ体操服のままで着替えすらしてない!持ち物は全部部室だし……嗚呼、もう、 「サイアク!!」 彼女に話しかけたのが絶対に間違えだった! こうして中学一年生の秋は過ぎていった。 いつの間にか彼女に会ったことも忘れて。 中学生の部活動は引退までが短い。 気がつけば三年生の夏になってしまっていた。 季節は巡り、初々しい気持ちで緊張を抱えたあの秋から、もう二年だ。 クラス替えは行われても、さほどメンバーは変わらず。自分自身何も成長していないように感じた。総子や近藤さんと、同じクラスのまま二年と三年を過ごした。 クラスの担任も変わらず松平先生だし、部活も代わり映えしない。いつまで経っても剣道部はできないし、顧問も変わらない。まあポニーテールがすこし伸びたぐらいだ。 部活とは別に習い事の剣道をしているのも同じだった。 ただひとつ、変わったとすれば今年になって初めてクラスメートになった、とある女のことだ。 その女は、お弁当の時間になり教科書を片付けた私の元にやって来る。 彼女はきゃぴっとした高めの声を出して、両手を頬に当てて悲鳴を上げた。 「やっば~い! 土方ってそんな、ゲロまず弁当とか食べてんのぉ? 信じらんなーい!」 「―――坂田」 「犬の餌よそれ、いーぬーのーえーさww」 「毎回ご飯の度に私のところにきて何の嫌がらせだゴラ!! ……はーん、わかったぞ。お前これが食いてーんだろ? やらねえからな!!」 「いらないわよドックフード」 「何がドックフードじゃーーーっ!!」 人の弁当を覗き込んで侮辱するだけして食堂に向かう、この失礼な女をどうしてやろうかと思う。 ちなみに毎日だ。三年生になってクラスメートになってから、毎日この時間になるとこの嫌味を言いに来る。 私と失礼な女――――坂田銀子は、同じグループではない。 それどころか相容れない分類だと思う。 まず坂田は誰かと一緒にずっといるわけじゃない。いわゆる一匹狼タイプだ。 髪は銀髪で目は紅く、とてつもなく人の目を引く。しかし初対面の相手にはテンションが低く、声も割と低い。 そのくせクールかと思いきやそんなこともなく、私と隣の席になった春なんか、突然「あんた豚なりそ~ww」と馬鹿にしてきたのだ。殺してやろうかと思った。 そして彼女は、規則を守らない。むしろ規則は破るためにあるものだと思っているような節がある。 スカートはもはや切ってしまって、パンツが見えるすれすれ。カッターシャツの胸元のボタンは二つまで開けるから、いつもブラの紐が見えてる。 その隙間からときどき赤い痕が見えた。 (たぶん……キスマーク、だよな?) 漫画でしか見たことがないから確信は持てないが、おそらくそうだ。今さっき喧嘩を売りに来たときも見えた。 風の噂では、年上の男とヤりまくってるらしい。それも不特定多数の大人と。 噂という地点で信用はならないが、別に私にしてみればどうでも良いことだった。 私からした“坂田銀子”という女は、私のスペシャル土方弁当に文句をつける生意気な女であり……この変な宇宙人学校に通う、数少ない『人間』だった。男とヤっている地点で女が好きなわけじゃない。それが私にとっては大切だった。 それを前に一度、彼女に言ったことがある。 私は移動教室の際に忘れ物をし、それを取りに行っていた。そこでサボろうとしていた坂田に会ったのだ。運悪く彼女と二人っきりだった。 「は? 世の中の女がみーんな、土方のこと好きだってゆーうの? ……なにその勘違い、こっわあ~~恋愛経験ゼロの女の妄想?? マジこっわぁー!」 物凄く馬鹿にされた。クソ笑われた。私はくっそ腹が立った。蹴飛ばしてやろうかと思った。 ―――でもそれで私は安心した。 こいつだったら……近藤さんや総子とは違うにしても、気の置けない友達になれそうだ。そう思えた。 とはいっても、キラキラグループ(近藤さん命名)と私がいる剣道の幼馴染グループでは全く系統が違う。まず坂田は一人で居たい人間だし、こちらに無理に誘う意味も分からなかった。 だからお弁当の時間になって、さっきのように少し話すだけにしている。それぐらいが一番いい関係だと思えた。 無関心だけど、関心がないわけじゃない。嫌いだけど、大嫌いじゃない。傍にいたいわけじゃないけど、離れたいわけじゃない。 一番気楽でよかったのだ。 そんな矢先だ。 進学の話が三年生の話題に上がり始める時期になったのは。 部活の引退が夏だから、この時期からみんな本気で迷いはじめるというのは、毎年のことらしい。松平先生が言っていた。 私はみんなと同じように、このまま持ち上がりで附属の女子高に通うのが、嫌だった。理由は言わなくても分かると思う。このまま女子だけの世界にいたら―――気が狂いそうだったからだ。 外部の公立の高校に通おうと心に決めていた。ちなみにこれは、近藤さんや総子にも言っていないことだ。あんな……一緒に高校に通えると楽しみにしている純粋な人に、心配をかけたくなかった。 (親が公立に通ってほしいって言ってた、って言い訳通じるか……?) ここの中学は名門女子中ということもあり学費が馬鹿じゃない。普通の家庭なら相当借金しないと来れないだろう。ならばそれを理由にして、と思った。 しかし生憎私の家は裕福だった。 不動産を営む父と教師の母は収入が多く、家に帰ってこない代わりにお金を沢山家に入れてくれた。 こんなんで通えなくなった、なんて言ったら―――倒産を確実に心配される。 どうにかして理由を見つけないと。女子高に通うことになる、残った人が傷つかない理由を。 そんなことを考えていると帰る時間が遅くなった。 教室の窓の外が黄昏色になっていることに気づいて、はっとする。 外のグランドでソフト部が、「片付けしっかりー!」と呼びかけているのが聞こえた。もう19時も近いことがわかる。 目を凝らして掛け時計を見ると18時40分を指していた。この学校が閉まるのは19時。それを過ぎると見周りの先生が回ってきて怒られるらしい。 「ぁ……」 やばい。完全に考え事し過ぎた。 目の前には進路相談の紙が置きっぱなし。提出期限は……今日。 「ま、まずい」 心臓がばくんとなった。 (だめだ) 焦る心とは裏腹に、私の太股はもじもじとし始めた。どうしたらいいのか考えないと、だめなのに……焦れば焦るほど、私のパンツのなかは熱くなっていく。 「っ……ぁ……」 (誰もいない、よな……?) 首を左右に振って、誰もいないことを確認する。教室の外の廊下も確認して、人が居ないことがわかった。 それから自分の椅子に戻って────私は、スカートに手をかけた。横についているチャックを、じーッと音を立ててゆっくりとおろしていく。一度立ち上がって、スカートを床に落とした。時間はないから、下に穿いてたハーフパンツは脱がない。 そして椅子の前の方に浅く座り、お尻の穴がある辺りに椅子の角が来るように調節して座った。 「…………っ、」 いつもこのときがドキドキする。 みんなにバレないように、音をたてないように。腰を振らないといけないから。 ぎし…………ぎし……っ 「ん、ン……っ」 どんなに小さく揺らしても音はする。 ソレを意識すればするほど、興奮が高まり、穴が引き絞まった。 「ふっ、ん、ン……ぁ…」 椅子の角が少しだけパンツに食い込み、穴に出入りする。私の汚い穴に、学校のみんなが使う、椅子がっ。 その背徳感が、堪らなく私のナカをきゅんきゅんさせた。 「んっ、ん、ん~~!!」 そろそろイけそう…………っ。 ヒクつく膣のナカに私は絶頂が近いことを予感し、腰を大胆に激しく振った。 ガタガタッと大きめの音が椅子の足からする。 「ぁっ、あ、あッ、ぁ────!」 (イっちゃう) きゅううと太股を擦り寄せて膣を引き締め、私はいつものようにイった。パンツのなかに少量の婬液が漏れていくのを感じる。 「は、ぁ…………ぁ……っ」 私は荒く息を吐きながら、手でパンツの濡れた部分を押さえた。 ああ―――またやっちまった。 私の悪い癖だ。 焦ったり緊張したり大切な場面になったりすると、なぜか膣のナカがきゅんきゅんしはじめてしまうのだ。それで一度太股を寄せてしまうと、止められなくなる。オナニーをして、一度イくまで……穴の奥が疼いて仕方がなくなってしまう。 日頃、人に厳しく、ルールを守れだの風紀を乱すなだの言っている、あの、土方トシ子が──である。寝る前には乳首まで触ってオナニーをしてるし、エロ小説(18禁は見ていない)だって実は読んでいる。変態な言葉を布団の中で言いながら、淫乱な自分に興奮して……イってしまう。 本当はこの学校の中で、一番汚いのは私なのかもしれない。 純情なフリをしてこんな────公共のものでオナニーをしているのだから。 「っ…、ぁ………」 そんなことを考えているとまた中が疼きはじめた。ごくりと唾を飲み込み、もう一度だけなら……と時計をみてあと五分あることを確認した。 ハーフパンツの中に手を入れる。しっとりと濡れたパンツの部分を指ですぅーっと撫ぜた。そして、昨日本で見て覚えたばかりの弄り方をしようと、おしっこをする辺りに指を当てた瞬間。 カツーン カツーン 廊下を誰かがあるく足音がした。 「っ!!」慌てて私はハーフパンツの中から手を抜き、立ち上がってスカートを穿いた。チャックが絞まりにくくて指を挟みかけたが、どうにか締まった。 ホッと息をつきかけたとき、ガラッと後ろのドアが開いた。 「んー? ───なにしてんの土方」 「……ぉ、おう」 後ろを見ずともわかる。私のことを名字で呼ぶ子なんて、坂田ぐらいだ。 彼女はこちらに興味がさしてなさそうに欠伸をしながら、教室に入ってくる。足音が近くにやってきた。 「さ、さかた……なにか、わすれた、のか?」 「は? なにその片言。ちょーきもーい」 「んだと!?」 良かった……坂田はいつも通りだ。ということは、バレていない。 あんなことをしていると知られたら引かれるどころじゃなくなる。坂田のことだから、完全にネタにして言いふらかすだろう。 彼女のことはそういう面では信用していない。 バレてないならいい。もう気にせず帰ってしまおう。進路相談の紙は間違えて持って帰ってしまった、と言い訳をしよう。今から書いて出しに行くのもあれだし、なによりまだ、行く学校を決めあぐねていたから。 窓の外はすっかり太陽の影を落とし、鴉の濡れ羽色になろうと急いでいた。濃淡の綺麗な紫色が、地平線の近くを染めている。 私は机の側面に引っ掛けていた学生鞄をとり、筆記用具や教科書をしまっていく。進路用紙は折れないようにファイルに入れた方が良さそうだ。私はファイルを探そうと、机の中に手を突っ込んだ。 すると、いきなり制服を引っ張られた。 「ッ、」 いつの間にか坂田が隣に来ていた。 でもまあ、引っ張られたからって坂田の方を見るのもおかしいだろう。私たちの関係はそんなものだ。 私は、彼女の方を見ずに言った。 「な、なんだよ、帰んないのかよ」 「――――土方」 「ンだから、なにって」 「何してたの?」 ぎくりと固まった。まるで一部始終を見ていたかのような台詞だ。 「なんの…話?」 「こっちが聞いてるの。あんた―――スカートからカッターシャツでてる」 「っ、!!」 なんて初歩的な失敗。さっきハーフパンツになったときに出してしまったからだろうとすぐ分かった。私は慌てて、スカートの中にカッターシャツを入れる。 でも良かった。さいわい坂田はシャツのはみ出しを揶揄いのネタにしたかっただけのようだ。 「もおー。ファッション気にしないにしてもさぁ~土方ダサすぎ!」 そう言って彼女はケラケラ笑っていた。……苛々するがここは我慢する。 鞄にすべてを詰めこんで持ち上げ、いまだに笑い転げる銀色の物体に声をかけた。 「笑いすぎだバーカ!」 「ふふっ………子どもかよ、土方ぁ~」 「うっせー! 少し服の入れ方間違えただけだろッ、それをコケにしやがって……はやく帰るぞ!!ばーか!」 「え~待ってよぉ! 校門閉まるし帰るのおんなじだし、一緒に帰ろーよぉ! ダサ方ちゃーん………ぷっ!」 「置いてくからな!!!」 「だーかーらー待ってよぉ」 坂田が自分の机から何かを取り出して鞄に入れたのを確認してから、私は教室のドアに向かって歩き出した。そうなると必然的に、坂田が私の背中をついてくるようになる。 まだ後ろで賑やかな笑い声をあげる嵩高い女を無視して、下駄箱を目指した。 階段を降りはじめた頃から坂田は段々静かになり、足音だけが響くようになってきた。 カツンカツン 「「……………」」 気まずい。 さっきまでの声が大きかっただけに、沈黙の反動が大きい気がした。 部活帰りの生徒たちが大量に門をくぐって行ってしまった後なのか、グランドの方からは声が聞こえなかった。 暮れるのが遅い夏とはいえ、もはや夜も入り口を過ぎている頃だ。蛍光灯のついていない廊下の繋ぎ目は、おそろしく暗いように感じる。 いくら坂田相手とはいえ沈黙に耐え切れず、なにか話題を振ろうとしたときだ。 「―――トシ子ってさぁ」 「は?」 突然彼女が私のことを下の名前で呼び始めた。私は唖然として坂田の方を振り返って、階段の途中で足を止めてしまった。 すると張本人が不思議そうにした。 「なに驚いてんの?」 「え、いやいや、え…? てめえが……名前で…」 「近藤ちゃんはアンタのこと下で呼んでるじゃん」 「近藤さんは近藤さんだろ―――」 「え~私が呼んじゃダメなの?」 「駄目っていうか……気持ち悪いっていうか…」 正直な気持ちを私が伝えると、坂田はチャシャ猫のように目を細めて意地悪く言った。 「じゃーもっと言うわ。トシ子って呼んじゃうし♡」 「はぁ? ―――嫌がらせかよてめえ」 「あったり前じゃん~。私も下の名前で、とーしーこーに呼ばれたらヤだもん」 坂田が煽るように自身の肩を抱いて震えてみせるので、私は一等怒りを感じて、頭に血がのぼった。怒鳴ってやろうかとも思ったがそれでは、相手の思う壺だろう。 それよりももっといい仕返しのやり方がある。……坂田は自分で墓穴を掘ったのだから。 「―――ぎんこ」 「……は~?」 私が名前を呼ぶと想像通り坂田が、いや、銀子が顔を顰めた。 そして彼女は自分を抱いていた腕を、高速で擦り始めた。 「無理ムリ無理~!ひぃー!きっもー!」 「ぶふッ!」 あんまりにも銀子が心から嫌がるので、私は楽しくなって何度も呼んだ。 「銀子ぎんこ銀子~」 「ひーーッ!いーやーだ!!」 「ぎーんーこーちゃああん」 「ちょっと~鳥肌立つからマジやだぁ~」 「なら…私のこと下の名前呼ぶなよ?」 「それはむーりー! でもほんとトシ子きもぉい!」 「っおいコラ待て!! てめえが止めねえなら、私も銀子って呼び続けてやるからな!」 「はあ~? 私がなんでアンタのいうこと聞かなきゃダメなわけ? 私もぜっったい止めないしぃ!」 「私もだからな!!!」 言い争いをしていると論点が段々とずれ気づけば、場外論争になっていた。もはや何が問題だったかすら思い出せないが、とりあえず坂田銀子に負けたくないということだけは明確だった。 彼女がやめないなら、私もやめない。負けたくないから、折れたくない。 かくして私たちは下の名前で呼ぶようになった。 (あれ、なんかおかしい?) そう気づいたときにはもう家でお風呂に入っていた。 まあ、どうでもいい。どうせ坂田のことだから名前のことなんかすっかり忘れて、明日には違う呼び方をしてくることだろう。今までも『多串』だの『マヨ方』だのといった変なあだ名をつけては、翌日に忘れ―――を繰り返してきたのだから。 ……おかしい。 いやおかしくはない。普通なら。普通の友だち同士なら。 でも私と彼女は違うはずなのだ。 私と銀子は友だちじゃないはずなのに。 あの日から銀子は私のことを本当に、トシ子、と呼ぶようになった。 かつてのあの日のように馬鹿にするわけでもなく、皮肉ぶってでもなく。ただ友だちを呼ぶように、銀子は私を“トシ子”と呼ぶ。 それともう一つ変わったことがある。 「トシ子ぉ。トイレいこー」 「……なんで私がてめえとトイレに」 「行きたいからじゃん。細かいこと気にしないもんだってぇ~」 「まあ私も行きたかったからいいけど」 銀子が私をよく誘うようになった。 トイレだけじゃない。移動教室で理科室に行くときや、お弁当を食べるとき。ときには帰るのですら一緒に帰ろうというようになった。 銀子の誘う相手は、不思議と私だけだ。となりに居る近藤さんや総子のことは誘わない。いや、銀子が前に、「ついて行っていい?」と訊ねた近藤さんを断らなかったところを見るに、おそらく誰かが頼んだら四人で行動してくれるのだろう。 でも彼女が明確に誘うのは私だけだった。私が断れば彼女はすんなりと諦め、 「ふーん。りょ~」 と言ってひとりでふらっとどっかに行ってしまうのだ。それは前からの彼女と同じだった。 つまり銀子は私だけに興味があり、私がいなければ孤高の存在であり続けたのだ。 その事実が私にとって……浅ましいことだが……とても嬉しかった。一種の優越感だった。 “誰にも懐かない気まぐれな彼女を、私の一存で動かしている” というその唯一無二の私。 何よりもその事実が気持ち良くて、自慢だった。 しかしだからこそ、銀子が私を誘いに来ると、強く断れなくなった。 別にひとりになる銀子を心配したわけじゃない。彼女はそんなか弱い存在ではなかったし、何より私が彼女を可哀想だと思いたくなかった。 『対等な存在でなければならない』 そう私は、宇宙人ではない銀子を大切に思っていた。 そしてそれと同時に、私は、 “銀子のその誘いを断れば―――いつか私のことなど誘わなくなるのではないか?” と、不安に思ったのだ。 変な話だ。 誘われているのは私の方であって銀子ではない。決定権は私にあるはずなのに。本来の私であれば、嫌なことは嫌だとはっきり言えるだろうに。 私は銀子に一度選ばれたことが嬉しくて、その席から離れたくなかったのだ。女と秋の空は変わりやすい、と言われるのに、その“トクベツ”の気持ち良さを変に知ってしまったために……私は溺れていたのだろう。 あと半年で卒業して、違う高校に行くまでは浸っておきたい。そう本気で思っていた。 そして私は銀子の“友だち”になった。 秋になった。 「トシ子ぉ……」 「ん?」 私の膝の上に頭を乗せていた銀子がベンチの上で寝返りをうった。 裏庭の人目につかないところ(銀子が知ってた、彼女はこういうのに詳しい)にあるベンチは、最近の私たちのお気に入りの場所だ。 「あ、勝手に頭動かすなって。葉っぱ、奥の方に入っちまったぞ」 私はあわてて、しかし卵に触れるように気を付けて、銀色の髪に指を差し入れた。 乱れた美しい髪の毛が、雪のように透き通る彼女の肌に、跳ねていた。神聖な絵画に描かれているような、完璧な曲線で。 私が下を向いて彼女の頭に付いた葉っぱを探していると、ふと自分の黒髪と彼女の銀髪が混ざっていることに気づく。 (……ぁ) 今日ほど、髪を伸ばしていてよかった、と思った日はない。 ポニーテールを外してほしい、という銀子の願いを叶えた自分にも感謝した。 私は無意識のうちに唾を飲みこんだ。 ミルクを夜に落としたような、濃厚で、優しい渾沌を、私は見たことがなかった。できることならずっと―――見ていたい。そう思うほど、胸を打つ光景だった。 「としこ」 「……な、なに……っ?」 声が震える。 天使に話しかけられている、そう錯覚したから。 「としこ」 「………ぁ」 ふと彼女が身体を起こして、となりに座る。 そして、私のタイに人差し指をあてた。 私は、考えていることを見抜かれたのかと驚いて、手を止めてしまう。それを銀子はくすくすと笑った。 「―――とし」 銀子が、近藤さんの真似をして呼んでくる。 “呼んでもいい?”とたずねるような……本当に本当に小さな声だった。 彼女の指はタイからずれ、セーラー服の表面をすぅっと撫でた。その指が下に、下に、と歩きはじめる。 「とーし」 また愛称を呼ばれる。今度はさっきより随分しっかりした声だ。もう私が彼女を拒まない、とわかったらしい。 私は彼女に、そう呼んでもらいたかった。 彼女の指がふと止まった。 私は、魘されるように呟く。 「そ…そこ、は……っ…ぁ……」 指がのせられたのは、私の乳頭だった。 ―――もちろん制服は着ている。 でも、まだ秋も始まったばかりでカッターシャツとブラジャーだけのような恰好だ。指を強く押し当てられれば、おっぱいの形なんてすぐに浮かび上がる。 しかも私のおっぱいは自慢じゃないが、大きい方だ。もともと制服をよく押し上げていたところに指がのると、簡単に乳頭と指が触れ合ってしまう。 そのとき、ひんやりとした風が頬を撫でた。外だということをいやに強調させる風が。 そして空が視界に入った。秋空らしい青天が広がる。―――私はいま、外で銀子におっぱいを触られているんだ。 いくら銀子しか知らない秘密の場所とはいえ、もしかしたら迷い込んだ子に、見られるかもしれない。外でおっぱいを触られている姿を。そうじゃなくても空が見てる。 私はどうしたらいいのかわからなかった。 (友だちは……こんなことをするのか?) 少なくとも近藤さんや総子とはしたことがない。けれど、私にはほかに友達がいなかった。ほかに比べる相手が、圧倒的に少なかった。もしかしたら今どきの女の子は、こんな遊びをするのかもしれない。私が知らないだけで。 銀子は私よりも大人だ。精神的にも経験的にも。そしておそらく、外部に友達が多くいるという意味でも――。 (私は真面目すぎるのか……?) おっぱいは女にとって大切な部分だと思う。赤ちゃんができたら母乳を与えなきゃだし、好きな人にしか見せちゃダメだと思う。 でもよく私は『古い』と言われる。尊敬する近藤さんにすらそう言われたことがあった。 それでは将来好きな人ができても……呆れられるだろう。 別に好きな人が出来なくてもいい。相手の好みにすべて沿うことだって、私はしたくない。 (―――それでも、このままじゃ、しんどくなる) この学校は女子だけということもあり、わりと女同士で下ネタを言っているところに遭遇する。私はその時あからさまに嫌そうな顔をするので、誰も私には言ってこない。総子が嫌がらせに言いにくるが、それもずっとじゃない。 つまり耐性が全くないに近かった。 そうなると、将来好きな人とそういうことになった場合……私は、相手から伝えられる情報に耐えられるのだろうか? 私はいわゆるオナニーをするのが……その…まあ、好きだ。でもそれは自分が一人でやるからだ。もしも誰か相手がいたとして、実際に触られたら―――ついていける気がしなかった。とても恥ずかしくなると思えた。無理だ。だってドラマのキスシーンでチャンネルを変えるぐらいだから。 だったら今のうちに、銀子に教えてもらった方がいいような気がした。 ふと乳頭に置かれた指先に力を入れられて、我慢できずに「ひっ…!」と小さく声が漏れた。 それを聞いた銀子が、はちみつを溶かしたように優しく微笑んだ。 「心臓がうごいてる。どっくんどっくんって………トシ子が生きてるって。ね?」 彼女の声は、羽がふわりと触れるように優しかった。まるで本を読まれているように安心した。 さっきみたいな緊張はなかった。 銀子の指が五本に増え、私の左のおっぱいを手の平全体で包み込んだ。氷のようなすらっと長い指が、私の重量のある乳房を四方からゆっくりと揉みほぐす。 「……っ…、」 「トシ子って、しこりないね」 「っ、ぇ……お…おかしいの……?」 病気なのかと心配になって咄嗟に聞き返した。 すると銀子は、またあの笑い方をした。 「柔らかくて気持ちぃーだけ。ねぇ揉んだときに痛くないでしょ?」 「ひッぁ、」 「ごめん強すぎた? でも男の人に揉まれたらこんなんだよ」 「……ッ、」 銀子が手を緩めながらそんなことを言った。 生々しい言葉と身体への刺激に、思わず私の膣の中がじんわりと湿りはじめる。 (銀子の前で濡れるわけには―――っ) 私は注意を反らして意識しないようにしようと、素数を数え始める。 すると銀子が手をおっぱいから離してきた。 「ぁ、」 思わず小さな声を出してしまう。 ハッとして我に戻り、なんて恥ずかしい反応をしたんだと私は頬が熱くなった。 しかし銀子はそんなことを気にもかけず、ベンチの下に置いていた鞄を漁りはじめていた。 一体なんだったんだろう……。 私は、銀子にたずねたかった。 でもたずねれば、彼女と私の関係がよく分からなくなりそうだった。 友だちのはずなのに、聞きたいこともきけない。 喧嘩はよくしていたはずなのに、一緒に行動することが多くなって、最近二人でいることばかりだった。 これを―――親友と呼んでもいいものか。私はそれがわからなかった。 いや親友ではないか。自分で思って鳥肌が立った。 そんな女子みたいな可愛いものが当てはまるとは思えない。 よくて、友だち。 妥当なところで、『喧嘩友だち』か。 でも喧嘩をしなくなったのならば……やっぱり友だちなんだろうか? 「とっし~」 悩んでいる私を呼ぶ声がした。軽い声だ。銀子が、天使から人間に戻った瞬間だ。 ベンチの下から身体を上げて、銀子がこちらを向いていた。 「おもしろいこと言ったげよっか?」 「……ろくなことじゃない」 「いやこれは期待していーやつ」 「なに?」 たずね返している地点で私は、銀子に甘い。 「私と一緒に、ここ行こ」 「どこ?」 どこか遊びに行くのだろうか。私は休みの日に剣道のメンバー以外と遊びに行ったことがない。内心ちょっとワクワクした。 銀子は鞄から一枚の紙を取り出した。それを私の目の前に突き出し、その一部を形の良い指でさして言った。 「○○高校」 「――――へ、」 「私ここに行くから。トシ子も行こうね?」 「……なんで附属に行かねぇの?」 純粋に疑問に思った。別にそのまま持ち上がりの方が楽だし、いいはずなのに。銀子はてっきりそうするのだと思っていた。 私は外部を受けようと思っていたけど……銀子には理由がないように思えた。どこにいても彼女は彼女。誰がいても居なくても一緒で。 私は不思議だった。 「あそこヤなの。嫌いな奴いるし」 「銀子がきらい……? めずらしい」 「私も生きてる人間だからね。で、トシ子いこーよ」 「……わたしは、べつに………附属行くとは思わないのか?」 「え? なんで?」 「いやなんでって――――みんなそうだろ」 まさか、宇宙人が嫌だから外部行くんでしょ、とは言われないだろう。 それでも私が違う高校に行くと思われていたのなら、その原因を隠しておかないと……心配に思う人がいるから。外部に行く素振りを見せるわけにはいかなかった。 すると銀子は当たり前のようにさらっと答えた。 「私がトシ子と同じ高校行きたいから。ほら、○○高校行くんだよ?」 おそろしいほどの自信だった。 まるで銀子が言ったワガママはすべて私が聞いてくれる、とでも言いたげだ。まさかそんな甘い世界ではない。私だって嫌なときは断るし、銀子ばかりを優先にはできない。 そう言ってやるつもりだった。 そして、○○高校ともまったく違う高校に行くつもりだと、言ってやろうとした。 それなのに、私はおかしい。 絶対におかしい。薬が必要なほど、おかしい。 口を開く直前に銀子の顔を見て、胸が苦しくなってしまったのだから。 「――いいよ」 気づけばそんな言葉が口から零れていた。